近未来ノ愛


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飼育緑板「天使の詩」スレ 328-597 完結済

2026年。月旅行や召使ロボが実現した時代。事故で両親を亡くし一人で生きる吉澤。
雪の日に出会った後藤真希という少女は、感情機能が欠落したアンドロイドだった。
真希は彼女のマスター・市井紗耶香と共に、吉澤の家の居候となる。

よしごま。後藤さんの感情の行方と吉澤さんの葛藤が主なテーマ。
このスレには他にも、吉高、いしよし、吉飯、吉松、そして娘。小説では世にも珍しい、中亀(中澤・亀井)の短編がある。どれも良作でお勧め。
 
そんなわけで、以下ネタバレ注意。
 



感情を持たないアンドロイドに恋する人間。
人間の命令は全て忠実に実行するアンドロイド。
ごっちんに自分を愛して欲しいとよっちぃは願うんだけど、それを後藤さんはマスターからの命令として受け取って実行するから、そこに吉澤さんがジレンマを抱くわけで。
「好きだよ」といえば、「ごとーも好き」と答えてくれる。でもそれも命令した結果に過ぎなくて、そこにごっちんの感情はないから、よっちぃの虚しさはつのっていく一方で。
 
そこまで持っていく話の組み立て方は上手いと思った。命をかけた市井さん、梨華ちゃんと保田さんの関係、人間の前では見せないごっちんの笑顔、感情をとるか記憶を取るかの選択、飯田さんの役どころ。設定がきちんと練りこまれ、うまく組み上げられている。
 
最初は感情を持たないごっちんに反感を抱きながらも、だんだん心惹かれ、愛するようになって、ジレンマに陥って追い込まれてゆくよっちぃの描き方も素晴しいと思う。
 
 
だけれど、一つ残念に思った事がある。
それは「感情」のあり方と最終的にごっちんにとらせた選択。 
 
実を言うと、「感情を持たないものと人間との恋愛」のテーマは、自分にとっては目新しいものではなかった。この作品を読んでいてすぐに思い出したのは、某ゲームのセリオというキャラ。その二次創作物でも、感情をもたない(はずの)メイドロボのセリオに、感情を持たせるにはどうするか、人間と機械はどんな関係にあるべきか、そもそも感情とは何か、をテーマにしたものがたくさんあった。そんな文章をたくさん読んでたからこそ思ったこと。
 
作者さんがセリオやその二次創作を知っているかどうかはわからない。「感情」についてどう定義付けしているかもわからない。でもこれだけは言いたい。「感情」って、それ用にプログラムされた物が生み出すものだけが、「感情」なの?と。
 
ごっちんがよっちぃのために手術を受けると決めたこと自体が、ごっちんの「感情の表れ」じゃなかったの?と。
 
そこにあったのは小さなものかもしれないけれど、だからこそそれをよっちぃとじっくり育てていって欲しかった。それまでのやりとりの中で生まれたものを大事にして欲しかった。だから手術後再会したときに見せたごっちんの「感情」や「本物の笑顔」を何か悲しく、残念に感じてしまったのだ。
 
まあ、これはセリオ好きの戯言。一意見。
 
「機械の感情」についての捉え方の違いもあると思うし。状況がそれを選ばざるを得なかったとも言えるかもしれない。最終的には二人は幸せになってるわけだし。それはそれでよかったんだと思う。
 
それになにより、文章の素晴しさには変わりない。
 
特に、ラストの飯田さんのセリフには、ぐっと来た。同じアンドロイドの飯田さんが言うセリフだからこそ、込められた感情と優しさに色々と考えさせられるものがある。そしてこの物語をそこでピタリと収束する力がある。すごい、と思う。
 
 
アンドロイドで無表情なごっちん、っていうのも想像しやすいというか、ハマってる気がする。
そして仲間の前だけ笑顔を見せたりするんだよね。これがまた。よっちぃがころっとやられちゃうのも無理はないと言うか。そんな振り幅があるのもまたごっちんというキャラならではだろうか。
 
そして、後からふと思ったのは、最初から保田さん経由でつてをたどれば、市井さんは死ぬことなかったんじゃないかなーってこと。まあ、そうならなかったからこそ悲劇なわけで、最終的によしごまは幸せになったわけで、それを言っちゃあおしめえよってことで、市井さんはかわいそうなんだけれど。
 
 
とにかく、感動の一作。心に残る物語だった。
 
同スレでは現在、新しいよしごまの話が始まっている。こちらにも期待。